今後の障害者福祉を考える 〜障害者自立支援法の施行を通じて〜 顧問レポート
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佐野短期大学社会福祉学科教授 日比野 清

 ノーマライゼーションが進展する中、障害者の高齢化、障害の重度化と重複化などの多様化の進展、そして今「障害者自立支援法」が施行され、障害者のニーズとそれへのサービスも大きく変わろうとしています。

 戦後、1949年に「身体障害者福祉法」が制定され、1960年に「精神薄弱者福祉法(1999年知的障害者福祉法に改称)」が、さらに1995年に精神保健法が「精神保険及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)」と改正され、障害者のための基本的な三法が整いました。しかし、これら三障害、個々別々の法律ではサービス提供上統一性がなく、問題となっていました。それを解決しようと、新しい法制定の機運が高まっていったのも事実ですが、「障害者自立支援法」については、それまでの支援費制度に変わって制定せざるを得ない事情、つまり安定した財源確保の必要性というねらいがあったのも事実です。

 「障害者自立支援法」の「自立支援」とは私たちにとってどのようなことを意味しているのでしょうか。まず、「自立」とは、大きく分けると三つのとらえ方があります。第一の自立は、一般的に「自活」という用語で表現されているように、自らが働いて得た賃金で生活を営んでいる状態です。すなわち「経済的自立」を意味しています。第二の自立は「日常生活動作上の自立」です。介護上では食事・排泄・入浴・移動などが自分で出来るか否かということ、すなわち「身辺自立」しているかどうかが視点となっています。現在施行中の高齢者の介護保険制度上の自立は、まさにこの自立を意味しています。第三の自立は、「精神的自立」と表現されていますが、「自己決定できる」ことを意味しており、最近ではそれを「自律(自ら律する)」とも表現しています。すなわち、自分がこれからどうしていきたいか、どのような生活をしていきたいかなどを自らが決定することです。このことは1960年代の米国でおきた自立生活運動によってもたらされました。それは食事や衣服の着脱などの日常生活動作が自分では出来ない重度障害のある人であっても、本人が自分の生活を自己管理することを基本とするものであり、自分の人生は自らが決定していきたいということから発祥したものです。

 この三つの自立の考え方は非常に重要なことを示唆しています。すなわちこれらの考え方は、ただ単に並列に並べられているのではなく、第三→第二→第一の自立へと指向性(方向性)をもっているものです。重度障害のある人であっても、まずは第三の自立を目指し、それが達成できたら第二の日常生活動作の自立を、そして更には第一の経済的な自立を目指して努力していくことを示しています。たまたま第一の自立が年金や手当によって満たされている人もいます。すべての人が第一あるいは第二の自立が達成できなければならないということではなく、各々の人が自分の思うように精一杯の力で、その人らしいそれぞれの自立を目指して努力することが重要であり当然です。これらのことは、障害のあるなしにかかわらず、ともすれば忘れられがちな事柄ですが、全ての人にとって欠くことのできない目標です。

 「支援(サポート)」とは、かつて対人援助サービスなどでよく使用されていた用語の「援助(ヘルプ)」と異なり、あくまでも判断や決定をするのは当事者であるサービス利用者であることを、より強調した用語です。一方「援助」とは、なにもかも全てを助けてもらう、あるいは支援よりさらに具体的なまたは技術的な助けを意味していると考えられています。したがって、「自立支援」と言う用語は、判断や決定をするのはあくまでも当事者であるサービス利用者であり、その判断や決定に必要な情報提供や手だてについては、いくらでも協力するという意味と解釈できます。まさに「障害者自立支援法」はこのような意味から、主体者は障害者であることを明確にし、サービスを自ら選び、決定していくべきであることを示唆しているものと考えられます。

 確かに、この法には多くの問題点がありますが、役に立つ部分を徹底的に活用していくことも一つの方法です。そして、不十分なところについてはきちんと要求していくことが必要です。たとえば、障害者自立支援法のサービス体系の一つである「地域生活支援事業」は今年10月からの施行ですから、その細かなことについては今具体的方法が決定されようとしているところです。したがって、皆さんがお住まいの市区町村および都道府県に対して交渉を早急に開始しなければならない時季に来ています。

 私は、「介護保険法と障害者自立支援法は、近い将来統合されざるを得ない。」との見通しを立てています。それは、障害者向けの新しい給付制度の仕組みである「障害者給付審査会」は介護保険の「介護認定審査会」を意識して設定されたものであると同時に、「障害程度区分」は「要介護度」、「サービス利用計画案」は「介護サービス計画」にそれぞれ対応していることを考えれば、十分推測できると思います。障害者自立支援法は介護保険制度の仕組みを意識し、それとの整合性を図り、介護保険との統合を見据えたものであると断言できます。したがって、現在介護保険への加入年齢が40歳であるのに対して、両法が統合された時には30歳、さらには20歳になることも十分ありうるでしょう。

 すなわち将来は、高齢者・障害者を問わず介護等のサービスが必要な人には、一元化された法律によってサービスが提供されるようになるのではないでしょうか…。


 日比野清(ひびの きよし)視障者

  • 佐野短期大学 教授(社会福祉学科)
  • 元「日本ライトハウス視覚障害者リバビリテーションセンター」ケースワーカー、所長として23年勤務。視覚障がい者の福祉向上に努められる。
  • NHKラジオ第2「視覚障害者の皆さんへ」のコメンテイター等、幅広く活躍されている。

『わたしは盲導犬イエラ』を会の録音図書(No.87)として制作させていただく。 会の運営には折々にアドバイスをいただいています。
 幅広いご経験と利用者との立場からアドバイスをお願いしたいと考えています。